治療する

卵巣がんの治療の流れと具体的な治療法を紹介します。

薬物療法

化学療法 1)

化学療法は、抗がん剤によってがん細胞の増殖を妨げ、がん細胞を攻撃する治療法です。タキサン製剤、プラチナ製剤と呼ばれる2つの薬剤の併用が一般的です。

術後化学療法

卵巣がんは進行した状態で発見されることが多く、基本的には手術後に化学療法を行います。進行期によっては、分子標的治療薬を併用することもあります。初期で発見された場合でも、手術後に化学療法を行うことが多いです。

術前化学療法

がんが広範囲に拡がっている、全身状態が悪いなどの理由で手術が困難な場合は、手術前に化学療法を行い、がんを小さくして状態が改善してから手術を行うことがあります。


維持療法

維持療法

手術や化学療法で卵巣がんを治療した後に行う、がんが再発したり、大きくなったりするのを防ぐための治療を維持療法といいます2)。維持療法には分子標的治療薬が用いられており、血管新生阻害薬とPARP(パープ)阻害薬の2種類があります。

維持療法


使用する薬剤

TC療法(dose-dense[ドーズ デンス]
TC療法を含む)3)

TC療法

タキサン製剤と、プラチナ製剤の併用療法です。この2種類の薬剤を、3週間ごとに点滴で静脈投与するTC療法が、卵巣がんの化学療法における標準治療です。また、タキサン製剤を毎週投与することでタキサン製剤の総投与量を増やす治療をdose-dense(ドーズ デンス)TC療法といい、こちらも初回の化学療法の一つとして推奨されています。患者さんのがんの拡がり具合によっては、TC療法に血管新生阻害薬を併用する治療を行うこともあります。

TC療法

血管新生阻害薬

TC療法

がん組織が大きくなる際には、栄養や酸素を供給するために血管が新しく作られますが、この血管新生には血管内皮増殖因子(VEGF)が働いています。血管新生阻害薬はVEGFを阻害することで血管新生を妨げ、がんの増殖を抑えます2)。定期的に通院して投与(点滴)を続けます。

TC療法

PARP(パープ)阻害薬

卵巣がんの個別化治療で使われる薬剤に、PARP阻害薬があります。
細胞が増殖する際には、遺伝情報が含まれるDNAを正確にコピーする必要があります。
そのため細胞には、DNAが傷ついたときに修復するための仕組みがあります。

PARP(パープ)阻害薬
PARP(パープ)阻害薬

PARP阻害薬は、DNAを修復するPARPの働きを阻害することで、がんの増殖を抑えます。正常な細胞では、PARPを阻害しても他の修復システムによってDNAが正確に修復されますが、DNA修復システムが不完全ながん細胞(特にHRD陽性のがん細胞)では、PARPを阻害するとDNAを修復できず、細胞死に至ります。PARP阻害薬は飲み薬で、毎日飲み続けます。

PARP(パープ)阻害薬
個別化治療

近年のがん治療では、薬剤の効果が期待できるかどうかを判定するコンパニオン診断によって、一人一人に適した薬剤を投与する個別化治療が行われています。コンパニオン診断では、患者さんそれぞれが持っている遺伝子の変化を調べて、がんの特徴を明らかにします。卵巣がんでも、コンパニオン診断により、患者さんに適した薬剤が投与されるようになってきています 。

用語集

血管新生
既存の血管から新しい血管が形成されること 4)
DNA
デオキシリボ核酸。細胞の遺伝情報を保存し次の世代へ伝達するはたらきをもつ 5)

監修:東京大学大学院医学系研究科 医用生体工学講座統合ゲノム学 教授 織田 克利 先生

  • 国立がん研究センター がん情報サービス編集委員会 編:がんの冊子 各種がんシリーズ 卵巣がん・卵管がん, 第4版, 2021
  • 日本婦人科腫瘍学会 編:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版, 金原出版, 東京, p179-182, 2023
  • 日本婦人科腫瘍学会 編:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版, 金原出版, 東京, p170-172, 2023
  • 日本血栓止血学会 用語集 血管新生  https://jsth.medical-words.jp/words/word-73/
  • 中村 桂子ほか 監訳:Essential 細胞生物学 原書第4版, 南江堂, 東京, p806, 2016