我慢せずに悲しみ、怒ってから現実と向き合う
がんを告知されたり再発を知らされたとき、人は今までの安全で穏やかな日々を失ったと感じ(=喪失体験)、直後は多くの人は何も考えられなくなったり、がんから目を背けたりします。「なぜ自分だけがこんな目に合うのか」と思い、悲しみ、怒りなどの感情に襲われます。
悲しみや怒りなどの負の感情は「よくないもの」と考えられがちですが、喪失体験をした時には押し込めようとしないほうが良いのです。
なぜなら、大切なものを失った場合、喪失を受け入れるには時間とさまざまなプロセスが必要だからです。直後の茫然自失となり起こったことがにわかには理解できない時期、取り乱して泣き叫んだり理不尽な現実に怒りがこみ上げたりする時期、失ったものに目を向けて涙が止まらない時期、人生とはそもそも平等ではないんだという現実を理解してしみじみ泣く時期など、さまざまな様相を呈しながら少しずつ向き合うようになるといわれています。これを心理学の領域では「喪の仕事(mourning work)」といいますが、こうした骨の折れるプロセスを経て、人はがんになる前に描いていた人生に徐々に別れを告げ、新たな現実に向けて歩み始めると考えられています。
「がんなど大したことじゃない」と自分に言い聞かせ、悲しみや怒りの感情にフタをして、平静を装って困難を乗り越えようとする方もいます。しかし、命にかかわる出来事の場合、つらい気持ちを押し込めて立ち向かうのは、かなり骨の折れる作業です。
自分は今、傷ついていて、悲しくて苦しいという事実を、まず自分自身が認めることから始めましょう。信頼している人に、傷ついている自分の気持ちをありのまま話すことができれば、気持ちの整理につながります。