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卵巣がんになって患者さんが悩んだことと、そのケアを紹介します。

患者さんが本当に知りたい17のこと

なかなか発見されず、発見されたときには進行していることが多いのはなぜでしょうか?

卵巣がんは、はじめはほとんど自覚症状がありません。下腹部にしこりが触れる、お腹が張る、トイレが近い、食欲の低下などの症状があって受診することが多いのですが、このようなときにはすでにがんが進行していることも少なくありません。急激なお腹の張りや痛みなど、気になる症状がある場合には、早めに受診することが重要です。
卵巣がんのなかには、卵管采(卵管の先端部分)に由来し、ごく早期の段階から腹腔内(お腹の中)にがん細胞が散らばることによって進展するものがあることが分かってきました。こうしたがんの場合、ごく初期の段階で検出することは極めて困難であり、気がついたときにはがんが進行した状態となっています。

不妊治療をしている方に多い印象がありますが、排卵誘発剤などがリスクとなるのでしょうか?

特定の排卵誘発剤が卵巣がんを引き起こす因子として関与することが示唆されていますが、そのエビデンスは確定的ではありません。

一般にがんの治療を受けると妊娠できなくなるのでしょうか? 卵巣がんで妊よう性を残して治療することはできるのでしょうか?

一般に、がんの治療が生殖機能に影響し、妊よう性(妊娠するための力)が失われることがあります。手術で両側の卵巣を摘出した場合は妊娠できなくなります。手術のほか、放射線治療も妊よう性に影響し、卵巣に照射した場合は卵子の数が減少します。照射される放射線の量が増えるほど卵巣へのダメージは大きくなり、妊娠できなくなることがあります。(卵巣がんの初回治療で放射線照射が行われることは通常ありません。)また、薬物療法に用いられる薬剤の中には、卵子や卵巣の機能に大きく影響するものと、ほとんど影響しないものがありますが、薬剤による影響には個人差があります。

将来子どもをもつことについて考えるためには、担当医に気持ちを伝え、「がんの治療によって妊よう性にどのような影響があるのか」や「がんの治療後の見通し」を確認する必要があります。その上で、妊よう性温存を検討する場合は、生殖医療を専門とする医師(産婦人科あるいは泌尿器科)の診察を受ける必要があります。

若年で初期の卵巣がんでは妊よう性温存治療が考慮される場合があります。手術の際に、子宮と一方の卵巣が温存できることが最低限必要です(妊よう性温存手術)。卵巣がんの術後化学療法による排卵などの卵巣の機能への影響についても考慮することが必要です。年齢的な要素など個人差がありますので、妊よう性温存の可否については、医師や薬剤師に確認してください。

手術で骨盤リンパ節、傍大動脈リンパ節の郭清をしたため、リンパ浮腫が心配です。発症しないようにするには、どのようなことに気を付ければよいですか? また、発症した場合は、何科に行けばよいのでしょうか?

リンパ浮腫の発症時期には個人差があり、手術直後から発症することもあれば、10年以上経過してから発症することもあります。卵巣がんの場合には、下肢の浮腫に気をつける必要があります。旅行や引っ越しなどで重い荷物を運ぶなど、無理をしすぎるとむくみのきっかけになることがあります。また、炎症をきっかけにむくみを発症することもあります。

リンパ浮腫を予防するためには、日頃から脚全体を目で見たり、手で触ったりして、むくみがないか左右を比べて確かめましょう。その他、スキンケアによる皮膚の保護、日常生活での注意点(食事・体調管理、体に負担をかけすぎないための工夫、衣類・装飾品の選び方など)を守ることを心がけましょう。

リンパ浮腫を発症した場合は、担当の医師に相談し、専門のリンパ浮腫外来などを受診しましょう。また、リンパ浮腫に対するケアの指導を受けられる病院も多くありますので、初期の段階から担当医師や医療スタッフに相談してみてください。

手術で卵巣を摘出したため、更年期障害がおきるようになりました。ホットフラッシュなどの体調の変化と、気分の落ち込みなど精神的な変化があります。どうしたらよいのでしょうか?

閉経前の患者さんでは、両側の卵巣を摘出することにより、女性ホルモンが急激に減少し、ほてり、発汗、食欲低下、だるさ、イライラ、頭痛、肩こり、動悸、不眠、腟分泌液の減少、骨粗しょう症、高脂血症など、更年期障害のような症状が起こることがあります。これらの症状は時間の経過と共に徐々に軽快していきますが、日常生活に支障が出るようであれば、医師に相談してください。

子宮内膜症、チョコレート嚢胞から卵巣がんになりやすいのでしょうか?

子宮内膜症、特に卵巣チョコレート嚢胞を有する女性では、卵巣がんが発生する危険性が高いことが知られており、その頻度は0.7%とされています。

抗がん剤治療中の健康食品やサプリメントの摂取は医師に確認した方がよいのでしょうか?

抗がん剤による治療中は、健康食品やサプリメントを自分の判断で使用せず、医師や薬剤師に相談するようにしてください。また、使用している健康食品やサプリメントがある場合は、医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。

抗がん剤治療時、副作用の緩和方法は薬の服用、減薬、休薬以外にありますか?

副作用(有害事象)については、各症状にあわせて対処をしていきます。例えば、吐き気や嘔吐といった場合には、制吐剤のほか、無理に食べようとせず、無理のない範囲で水分の補給に努めるなど、日常生活で可能な対処をしていくことも必要です。心理的な不安により症状がつらくなる場合もありますので、気になる症状やつらい症状は、細かなことでも医師や医療スタッフに相談することをお勧めします。

抗がん剤治療時、生ものを摂るのはよくないのでしょうか?

抗がん剤では、骨髄抑制といって、白血球数、赤血球数、血小板数が通常低下します。白血球(特に好中球)は、体内に侵入した病原菌から体をまもる働きがあるため、減少すると病原菌に対する抵抗力が低下し、感染が生じやすい状況(易感染性)となりえます。そうした際には、生ものを避け、加熱したものを摂取する方が、リスクは低いこととなります。抗がん剤の種類や量などにより、骨髄抑制の程度も変わってきますので、医師、薬剤師にも適宜ご相談ください。

標準治療と先進医療の違いはなんでしょうか? 先進医療の方が最先端の治療を受けられると聞きますが、標準治療より優れている治療ということでしょうか?

標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療のことです。推奨される治療という意味ではなく、一般的に広く行われている治療という意味で「標準治療」という言葉が使われることもあります。

一方、先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養のことで、保険給付の対象とすべきか否かについて評価が必要な「評価療養」の1つとされています。一般的な保険診療を受けるなかで、患者さんが希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合に、先進医療が行われます。先進医療にかかる費用は全額自己負担となりますが、保険診療との併用が認められているので、診療・検査・投薬・注射・入院料など通常の医療と共通する部分の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。

なお、医療において、「最先端の治療」が最も優れているとは限りません。最先端の治療は、開発中の治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明され推奨されれば、その治療が新たな「標準治療」となります。

ゲノム医療について分かりやすく教えていただけますか。パネル検査で使える薬があったとしても保険適用で使えるとは限らないのでしょうか?

ゲノムとは、遺伝子をはじめとした遺伝情報全体のことで、体をつくるための設計図のようなものです。がんゲノム医療とは、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う医療のことです。
がんゲノム医療として、多数の遺伝子を同時に調べる検査である「がん遺伝子パネル検査」は、標準治療がない、または終了したなどの条件を満たす場合に、その一部が保険診療で行われています。がん遺伝子パネル検査で遺伝子変異が見つかり、その遺伝子変異に対して効果が期待できる薬がある場合には、臨床試験(治験)などを含めてその薬の使用を検討します。(他のがんでしか承認されていない場合や海外でしか承認されていない場合には、保険適用で使用することはできません。)遺伝子変異が見つからない場合や、遺伝子変異があっても使用できる薬がない場合は、ほかの治療を検討します。

家族にがん罹患率が高く、遺伝子の検査を勧められました。遺伝子の検査をするメリット、デメリットについて教えていただけますでしょうか?

がんの医療では遺伝子情報に基づく個別化治療が行われており、がん遺伝子検査は、「がんの診断」や「薬が効きそうか、副作用が出やすいかについての判断」などに役立ちます。がんに関連した遺伝子検査には、がん組織を用いてがんの中で生じた遺伝子の異常を解析する遺伝子検査と、個人が生来持っている遺伝子を調べて、体質的にがんにかかりやすいかどうかや、薬物等の効果・副作用等を解析する遺伝子検査(遺伝学的検査)があり、医師が必要と判断した場合に行われています。

乳がんの一部の患者さんや卵巣がんの患者さんでは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因となる遺伝子であるBRCA1/2の検査(さらにはリスク低減手術)が2020年4月より、保険診療下で実施できるようになりました。ただし、検査を希望される方が、乳がんや卵巣がんを発症していない場合には、検査(およびリスク低減手術)は自費となります。
BRCA1/2の検査によってHBOCと診断された場合、将来のがん発症リスクをできるだけ低下させる治療や継続的な検診が勧められます。検査結果を踏まえて対策を考えていけることはメリットとなります。一方、家族の間での結果の共有の仕方は難しい場合も多く、HBOCと診断されることでかえって精神的につらく感じられることもあるかもしれません。卵巣がんに対しては有効な検診法が確立されていないことも課題です。

なお、BRCA1/2の検査によってHBOCと診断される確率は、その方のがんの発症年齢や家族歴によって異なります。また、BRCA1/2遺伝子以外の遺伝子ががんの発症と関連する可能性もあります。BRCA検査などの遺伝子検査に関わるメリット・デメリットについて詳しくは、主治医や遺伝の専門家(専門性の高い医師、認定遺伝カウンセラーを含む)にお尋ねください。

再発予防に関して、経過観察中にできることはありますか?

経過観察では、必要に応じて、問診、内診、腫瘍マーカー検査、超音波(エコー)検査、CT検査などを行い、再発だけでなく合併症の有無についても確認します。日常生活では、栄養バランスのよい食事をとること、体調に合わせて定期的に軽い運動を行うこと、適正体重の維持などを心がけましょう。

卵巣がんと診断された時はかなり進んだ状態でした。「検診があればもっと早く見つかったかもしれないのに」という悔しさが消えません。早く気持ちを切り替えて前に進みたいのに、自分でもつらいです。

発見時は病気が進行していることに対して、多くの卵巣がん経験者の方が憤り、悔しさなどの感情を抱かれます。「乳がんには検診があるのに、なぜ卵巣がんには検診がないのだろう。検診を受けてよかったという他人の話を聞くと素直に喜べない。やりきれない気持ちです!」という言葉をたくさんの方から伺いました。

憤り、悔しさ、怒りという感情は、「こうあるべきだ」という期待が裏切られたときに発動する感情です。あなたは、人は平等であることを大切にしてこられたのかもしれません。であれば、「早期発見」の重要性が言われている中で、自分のがんが進行がんで発見されたことに対して怒りを感じておられるのは当然のことです。
怒りの感情と向き合うのはつらいことですが、押し込めようとすると心の中に悪いエネルギーが蓄積してしまいます。怒りのぶつけどころもないかもしれませんが、信頼できる友人、家族、医療関係者などに、今の思いを何度も聞いてもらうとよいかもしれません。そうすると、やりきれない気持ちはあなたの中でトーンダウンしていくのではないでしょうか。そのスピードはゆっくりかもしれませんが。

ひとつ、前に進むためのヒントを申し上げます。許しがたいと思うことを「しょうがない」と思うことについて、「そう考えることができれば、過去のとらわれから自由になれる」と考えてみてください。怒りの対象を許すということは自分を解放すること。自分にとってポジティブな意味を持つのです。

抗がん剤治療の副作用がどれぐらいのものかわからない上、病気のことを会社に伝えるのも嫌なので、治療に入る前に仕事を辞めてしまおうか迷っています。しかし、仕事を辞めてしまうと、再就職が難しいので悩ましいです。

様々なご事情があるのだと思いますが、しかし今仕事を辞めてしまうということはデメリットが非常に大きく、絶対にお勧めしません。がん告知後に慌てて辞表を出して、後で大きく後悔したという方はたくさんいらっしゃいます。一方で、辞職という結論を後回しにしたことを後悔したという話は聞いたことがありません。治療が終わった頃、体調的には復職が可能な状況になって、「あのとき慌てて辞表を出さなければよかった」と思っても取り返しがつきません。

治療に入る前の時点で、化学療法がどれぐらいつらいのか予測するのは難しいですが、結論を出すのは先延ばしされると良いでしょう。結果的に退職になってしまうこともあるかもしれませんが、治療にもお金が必要ですので、休職の制度を利用しましょう。休職であれば、会社によっては病休中の保証がある可能性もありますし、傷病手当金の制度を利用できることもあります。今まで働いてきたあなたが、会社や社会の制度を利用することは、当然の権利です。

会社に伝えることが出来ないと思われているとのこと、最初は自分の病気を知られたくないとみなさん思われますが、時間が経つ中で、「それは別に隠す必要もないことだ」と気持ちが変わって行かれる方も多いです。伝えることで、思わぬ励ましの言葉をもらって勇気づけられたという方もいらっしゃいます。しかし最初は、上司にだけ内々に伝えればよいでしょう。

「会社に迷惑をかけてしまう」ということを心配される方がいますが、病気を抱えた人が遠慮しなければならない社会は窮屈ではないでしょうか。誰もがいつがんになるか分からないわけですし、その他の問題を抱えることがあります。誰もが病気を抱えても周囲に遠慮しなくてもいいような、支え合う社会にしていくためにも、あなたが今辞職することは思いとどまっていただきたいです。

医師が忙しそうにしているので、聞きたいことがあっても聞けなくなってしまいます。どうしたらよいでしょうか?

たしかに、そういう状況だとつい遠慮してしまいがちかもしれません。しかし、納得がいく治療を受けることはあなたにとってとても大切なことですので、以下のような工夫を試してみてはいかがでしょう。

質問のポイントを事前に紙などに書いてまとめておき、医師に渡す
あなたの知りたいことの全体像が効率よく医師に伝わりますので、時間を有効に使うことに繋がります。

家族や友人に同席してもらう
引っ込み思案で切り出しにくいという方の場合にお勧めです。傍で見守っていてくれるだけでも安心ですし、場合によっては「本人は遠慮しているのですが、実は○○が気になっているようです」と切り出してもらうというのもよいかもしれません。

看護師に相談にのってもらう
外来の看護師などに声をかけ、「先生にこういうことを聞きたいのだけど」と相談すると、担当医師に伝えてくれたり、診察に同席してサポートしてくれたり、力になってくれることがあります。

担当医師の忙しさに配慮されるあなたはきっとやさしい方なのでしょう。でも、他人だけでなく自分を大切にするために、もっと主張して良いのですよ。

医師の立場から、コミュニケーションの取り方についてアドバイスをお願いします。

担当医師が卵巣がん治療に詳しく、あらゆる疑問に丁寧に答えてくれるのが理想的ではありますが、詳しい説明を受けるのが難しかったり、内容が難しかったりなど、聞きたいことを十分に聞けないこともあるかもしれません。看護師、薬剤師などからも別の視点で助言をもらえたり、丁寧な指導を受けられたりすることもあります。また、がんの専門性の高い資格を有するメディカルスタッフもいます。「がん相談支援センター」を設置しているところも多いです。かかりつけの病院で、がん患者さんをサポートする体制がどのようになっているのか、聞いてみることも参考になるかもしれません。