腎細胞がんについて

腎細胞がんとは

腎細胞がんとは

腎臓にできるがんのうち、腎実質の細胞ががん化したものを「腎細胞がん」、腎盂の細胞ががん化したものを「腎盂がん」と呼んでいます。腎臓にできるがんの約9割は腎細胞がんで、一般に「腎がん」といえば腎細胞がんを指します。腎細胞がんと腎盂がんでは、その性質や治療法が異なります。

腎細胞がんの発生と増殖

細胞は、毎日分裂・増加し(増殖するといいます)、毎日死んで、新しい細胞と入れ替わっています。正常な細胞では、増殖はよくコントロールされていて、細胞が増えすぎたり、減りすぎたりすることはありません。対して、がん細胞は、コントロールを無視して無秩序に増殖を続け(がん化)、やがて周囲の正常な組織や臓器に直接広がったり(浸潤)、血管やリンパ管を通って発生した場所から離れ(転移)、移動した先で再度増殖したりします。

腎細胞がんと腎盂がん
腎細胞がんと腎盂がん

がん細胞の発生と増殖・浸潤・転移

がん細胞の発生と増殖・浸潤・転移
がん細胞の増殖にかかわる因子とそのしくみ

細胞に「増殖せよ」というシグナルを送るタンパク質を「細胞増殖因子」または「細胞成長因子」と呼んでいます。ヒトの細胞は膜(細胞膜)でおおわれていて、その膜の表面には「受容体」という、細胞の外からのシグナルを伝える受け口があります。増殖(成長)因子が受容体に結合すると、「増殖せよ」というシグナルが細胞の内部に伝わります(シグナル伝達)。細胞内では、増殖にかかわるさまざまな因子(分子)によって、細胞の外から伝わったシグナルがリレーのように次々に伝達されます。そして、細胞の中心にある核の中に「増殖せよ」というシグナルが伝わって細胞の増殖が起こります。

増殖(成長)因子とそのシグナルを受ける受容体にはいろいろな種類があり、それぞれ結合するペアが決まっています。例えば、上皮成長因子(EGF)は上皮成長因子受容体(EGFR)と、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)と結合します。がん細胞では、これらの増殖(成長)因子が大量に産生されたり、受容体が異常に活発になっていて、無秩序に増殖が起こってしまうのです。

また、がんの種類(がんが発生する臓器)によって、関係する増殖(成長)因子と受容体が異なり、例えば、EGFRの異常な活発化は肺がん、結腸直腸がんなどに関連するとされています。腎細胞がんでは、がん細胞がVEGFを大量に産生していることがわかっています。

がん細胞が増殖するしくみ

がん細胞が増殖するしくみ
がん細胞が増殖し続けられるのは

細胞が生き、増殖するためには、酸素と栄養素を血管から取り入れる必要があります。がん細胞は、増殖し続けるために大量の酸素と栄養素を必要とし、そのため「血管を作るために必要な因子」を自ら産生・放出して、もともとある血管から新たな血管(新生血管)を引き込み、酸素と栄養素を大量に取り入れようとします。この「新生血管を作れ」というシグナルを送る因子の代表的なものが「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」です。

腎細胞がんでは、がんを抑制する遺伝子に異常が起こっています。この遺伝子の異常で、VEGFが大量に蓄積されるようになり、新生血管がたくさん形成されます。そうすると、がん細胞が活発に増殖できるようになり、周囲に浸潤したり、新生血管を通じて血管に入り込み、他の組織や臓器に転移したりするのです。

新生血管の形成とがん細胞が増殖し続けられるしくみ

新生血管の形成とがん細胞が増殖し続けられるしくみ

がん細胞が増殖するしくみとくすりの働きには関係があるのですか?

増殖(成長)因子やその受容体、またはシグナル伝達にかかわる因子(分子)に働きかけて、シグナルの伝達をとめることができたら、がん細胞の増殖・浸潤・転移を抑えることができます。または、新生血管が形成されないようにして、酸素と栄養素の補給路を断つことでも増殖・浸潤・転移を防ぐことができます。現在使われているおくすりの中には、このような点に着目して開発されたものもあります。

※「腎細胞がんの治療:薬物治療」「分子標的薬」もご参照ください。

腎細胞がんの頻度

腎細胞がんは、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、2015年の1年間で、人口10万人あたり7.9人(年齢で調整した全国合計値)が新たに発症したことが報告されています。また、男女比では、人口10万人あたり男性11.9人、女性4.4人と、男性のほうが約2.7倍多く発症しています。

一般にがんの発症率は増えていると聞きますが、腎細胞がんはどうですか?

がんにかかる患者さんは、人口の高齢化を主な要因として増加し続けています。腎細胞がんも同様に、ライフスタイルの変化や高齢化に伴って、年々増加傾向にあります。また、近年、診断技術が進歩し普及したことにより、腎細胞がんと診断される患者さんの数も増えています。

腎細胞がんは、どの年代の人がかかりやすいのですか?

腎細胞がんは加齢に伴って増え、50歳代から70歳代までが多いとされています。

腎細胞がんになりやすい人とは

腎細胞がんと生活習慣・環境との関係

腎細胞がんの発症に関係している特定の要因については、よくわかっていません。多くのがんの発症には喫煙、肥満、高血圧などが関係していることが知られていますが、腎細胞がんも同様の傾向があるとされています。また、塩分(ナトリウム)を多くとりすぎると、高血圧の発症を介して腎細胞がんになるリスクが高くなることも指摘されています。

腎細胞がんと人工透析との関係

人工透析を受けている患者さんは腎細胞がんを発症する割合が高く、また、透析期間が長くなるほど、発症する割合も高くなることが示されています。

腎細胞がんと遺伝との関係

難病のフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病やバート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群の患者さんとその家系の方は、腎細胞がんを発症しやすいことが知られています。日本泌尿器科学会の「腎癌診療ガイドライン2017年版」によると、VHL病患者さんのうち約50%の患者さんに腎細胞がんが発生し、BHD症候群患者さんでは約19%の患者さんの腎臓に腫瘍性の変化が認められたとの報告があります。

予防

腎細胞がんに関しては、発生に関係している特定の要因がわかっていないため、予防の決め手はありません。しかし、腎細胞がんの発生には、喫煙、肥満、高血圧等との関係が指摘されていることから、禁煙し、塩分控えめのバランスの良い食事や適度な運動を心がけることがよいといわれています。

※「日常生活で気をつけること」もご参照ください。

検診

がん検診とは、がんを早期に発見し、必要に応じて治療に進むため、それぞれのがんを調べるのに適した検査を行うことです。腎細胞がんについては、現在、厚生労働省によって指針として定められている検診はありません。人間ドックなど腹部超音波(エコー)検査で偶然発見されることが少なくありません。

また、VHL病やBHD症候群の患者さんとその家系の方は、若年から腎細胞がんを発症しやすいため、定期的に受診することが大切です。

腎細胞がんの種類

がんの組織を顕微鏡で観察すると、その見え方などによっていくつかの種類に分けることができます。これを「組織型」といいます。腎細胞がんの場合は、淡明細胞型、乳頭状、嫌色素性などに分類されています。

腎細胞がんの中で一番多い組織型は淡明細胞型腎細胞がんで、70%~85%を占めるとされています。フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病の患者さんが発症する腎細胞がんはこのタイプです。次に多いのは乳頭状腎細胞がんで10%~15%を占めています。また、長期にわたって人工透析を受けている患者さんでみられる腎細胞がんは、後天性囊胞腎随伴腎細胞がんや淡明細胞乳頭状腎細胞がんという、特殊な組織型に分類されています。腎細胞がんは、組織型によって治療法が異なったり、予後が異なったりするとされています。

予後とは

病気が良くなる可能性が高いか(予後が良い)、悪くなる可能性が高いか(予後が悪い)の見通しのこと