肝細胞がんの治療

主な治療法

主な治療法:薬物療法


手術で切除できない、肝予備能が比較的保たれている(Child-Pugh分類A)進行性の肝細胞がんに対し、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などによる薬物療法を行います。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬にはさまざまな種類があり、患者さんの状態をみながら、どの薬を使用するかを決定します。

分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、栄養を運ぶ血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質などを標的にしてがんを攻撃する薬で、飲み薬や点滴の薬などいくつか種類があります。がん以外の正常細胞への影響が少ないのが特徴です。

分子標的薬のはたらき
分子標的薬のはたらき
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分子標的薬による治療では、手足症候群、高血圧、下痢、疲労などの副作用が報告されています。また、それぞれの薬剤で特有の副作用が現れる可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫とは、細菌やウイルスなどの病原体、がん細胞などを異物とみなし、排除することで、体を守る力のことです。免疫では、血液中の白血球が中心的な役割を果たします。白血球の一種である細胞傷害性Tリンパ球(T細胞)は、がん細胞を攻撃する性質があります。
T細胞の表面には、免疫チェックポイント分子というアンテナがあります。ここにがん細胞が結合すると、T細胞に「がん細胞を攻撃するな」というシグナルが伝わり、T細胞にブレーキがかかります。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子に結合し、がん細胞が免疫チェックポイントに結合するのを阻害します。その結果、「攻撃するな」というシグナルの伝達をブロックすることで、T細胞にブレーキがかかるのを防ぎます。

免疫チェックポイント阻害薬
のはたらき
免疫チェックポイント阻害薬のはたらき
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免疫チェックポイント阻害薬の副作用としては、間質性肺疾患、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症など免疫が過度に働くことによる副作用が報告されています。

薬物療法を受けているときに調子が悪くなった場合は、すぐに主治医など医療関係者に相談しましょう。ご自宅で飲み薬を服用されている場合は、自分の判断で薬を減らしたり、やめたりせず、主治医の指示に従ってください。

医療関係者に相談

主な治療法:手術療法


肝切除

肝細胞がんに対する手術療法として行われるのは、がんとその周囲の肝臓の組織を取り除く「肝切除」です。肝切除は最も根治的な治療であり、肝細胞がんの標準治療となっています。
肝切除ができるかどうかは、がんの状態や肝機能によって判断されます。肝臓にがんがとどまっていて、がんの数が3個以内、肝予備能が比較的保たれている場合(Child-Pugh分類:AまたはB)は、がんの大きさに関わらず肝切除を行うことが推奨されます。
肝切除の術式には、小さい範囲での切除から複数の区域にわたる大きい範囲での切除までありますが、がんのある場所、大きさや数、肝機能に応じて決定されます。

肝切除の術式と切除範囲
(※薄紫の範囲が切除範囲)
肝切除の術式と切除範囲
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肝切除のための入院期間は患者さんの状態によって異なりますが、通常1~2週間程度です。

肝切除にともなう合併症として、胸水や腹水、胆汁漏(胆管から胆汁が漏れ出る)、膵液漏(膵臓と腸のつなぎ目から膵液が漏れ出る)、感染性合併症(手術した傷口の感染や腹腔内の化膿など)、肝不全(肝臓が機能しなくなる)、胃内容排出遅延(胃の働きの回復が遅れて胃酸や食べ物が胃の中にとどまる)などが起きることがあります。

肝移植

肝移植は、レシピエント(患者)の肝臓全体を取り出して、ドナー(臓器提供者)の肝臓を移植する治療法です。健康な人の肝臓の一部を移植する「生体肝移植」と、脳死した人の肝臓すべてを移植する「脳死肝移植」があります。欧米では主に脳死肝移植が行われていますが、日本で肝細胞がんに対して行われている肝移植のほとんどは生体肝移植です。

肝移植
肝移植
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肝細胞がんで肝移植が適応となる条件は、以下のとおりです。

  • 年齢が65歳以下である
  • 重度の肝硬変(Child-Pugh分類:C)を合併している
  • ミラノ基準内(がんの大きさが5cm以下で1個、または3cm以下で3個以内)、あるいは5-5-500基準内(がんの大きさが5cm以下で5個以内、かつ腫瘍マーカーのAFPが500ng/ml以下)
  • 肝臓以外の臓器への転移(肝外転移)、肝臓内の血管への広がり(脈管侵襲)がない

主な治療法:穿刺局所療法


穿刺[せんし]局所療法は体の外から針を刺し、局所的に治療するため、手術に比べて身体的負担が少ない治療法です。肝予備能がChild-Pugh分類のAまたはBであり、肝臓以外の臓器への転移(肝外転移)や脈管への広がり(脈管侵襲)がなく、がんの大きさが3cm以下で3個以内の場合に穿刺局所療法が行われます。

従来からの穿刺局所療法には経皮的エタノール注入療法(PEIT)や経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)がありますが、肝細胞がんに対する穿刺局所療法として、現在、推奨されているのはラジオ波焼灼療法(RFA)です。

ラジオ波焼灼療法(RFA)

RFAは体の外からがんに直接電極針を刺し、通電して電極針の先端部分に高熱を発生させることによってがんを焼き、死滅させる治療法です。RFAを行う際には、針を刺す部位に局所麻酔をするとともに、焼灼にともなう痛みを軽くするために鎮痛剤を投与します。焼灼時間は10〜20分程度です。なお、RFAでは発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害などの合併症が起こることがあります。

ラジオ波焼灼療法(RFA)
ラジオ波焼灼療法
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主な治療法:
肝動脈カテーテル療法


肝動脈カテーテル療法は、肝動脈内にカテーテルを留置して多孔性ゼラチン粒などの塞栓物質や抗がん剤を注入することで、多くの血液を必要とする肝細胞がんを“兵糧攻め”にする治療法です。
肝予備能がChild-Pugh分類のAまたはBであり、がんの数が2~3個で大きさが3㎝を超えている、あるいはがんの数が4個以上で肝切除やラジオ波焼灼療法(RFA)の対象にならない場合、肝動脈カテーテル療法が行われます。
肝動脈カテーテル療法が始まった当初は、塞栓物質のみを注入する「肝動脈塞栓療法(TAE)」が行われていましたが、現在は、塞栓物質と抗がん剤の両方を注入する「肝動脈化学塞栓療法(TACE)」が主流となっています。また、がんの状態や肝機能によって、抗がん剤のみを注入する「肝動注化学療法」が行われることもあります。

肝動脈カテーテル療法の種類
肝動脈カテーテル療法の種類
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肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEではまず、血管造影検査のために足のつけ根の動脈から入れたカテーテルの先端を肝動脈に到達するまで進めます。そして、肝細胞がんの中にとどまりやすい造影剤に抗がん剤を混ぜて注入し、その後に塞栓物質を注入して血管を詰まらせます。その結果、抗がん剤の作用でがん細胞の増殖を抑えるとともに、血管が詰まることによって栄養が送られなくなるためがん細胞を死滅させます。
なお、TACE後には発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害、胸痛などの副作用が起こることがあります。

肝動脈化学塞栓療法
肝動脈化学塞栓療法
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主な治療法:放射線療法


これまで肝細胞がんに対しては、臓器としての肝臓の特性から一般的な放射線療法を行うことが難しいとされていました。しかし、近年の技術の進歩によってがんのある場所のみにピンポイントで高線量の放射線を照射できるようになり、放射線療法は肝細胞がんに対する局所療法の1つの選択肢となりました。体幹部定位放射線治療(SBRT)や陽子線・重粒子線などの粒子線治療(※)が注目されています。

※重粒子線治療については先進医療として行われます。

また、放射線療法は骨転移による痛みの緩和、脳転移の治療、肝臓内の血管まで肝細胞がんが広がった場合の緩和的治療などを目的として行われます。

放射線療法