目次
介護施設や在宅介護の現場では、感染症のリスクが高い高齢者を守るために、さまざまな取り組みが行われています。
ここでは、介護分野における新型コロナウイルス感染症対策の最新動向を紹介します。現在行われている取り組みや制度・支援について理解を深め、介護の必要な方やその家族が感染・重症化予防について考えるきっかけとしてお役立てください。
介護現場の感染対策は
「平時から備える」段階へ
新型コロナウイルスの流行は介護現場にも大きな影響をもたらし、緊急事態の中で特別な対応に追われる状況が続きました。しかし、2023年5月に5類感染症へ移行して以降、新型コロナウイルス感染症への対策は「平時から備える取り組み」へと変わってきています1)。
介護施設でも、感染をゼロにするのは難しいと想定しつつ、起こり得る事態に備えることが基本となっています2)。
例えば介護施設での面会は、コロナ禍のときのように一律で制限するのではなく、感染拡大防止と、入居者と周囲の方のつながり・交流による心身への影響とのバランスを考慮しながら、各施設が状況に応じて判断することが推奨されています。また、対面での面会が難しい場合は、オンライン面会などの代替策を提示することが望ましいとされています。
しかし、高齢の方や介護が必要な方、認知機能の低下している方などは、感染症の重症化リスクが高いため、今後も高齢者施設での感染対策が重要であることには変わりありません2)。
介護現場の感染対策の“今”
コロナ禍の初期、介護施設内の感染拡大が懸念されましたが、常日頃から取り組まれてきた感染予防策が感染拡大防止につながったのではないかといわれています3)。
こうした経験もふまえ、現在の介護現場では、次のような対策を組み合わせた実践的な感染対策が定着しています2)。
標準予防策
手指衛生、マスクや手袋・エプロンなどの適切な使用
換気
居室や共用スペースのこまめな換気
ゾーニング
感染した方とそうでない方の生活空間や動線を分ける
厚生労働省老健局 介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月) をもとに作成
また、医療と介護での連携が医療・介護制度の面からもいっそう重視されるようになり、平時から医療機関との協力体制を整えておくことが評価されるようになっています4)。
在宅介護では、かかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャーなどが連携して感染症に対応する仕組みづくりが進められています5)。入退院時や感染時にも切れ目なく支援を受けられる体制の整備が進んでいるといえるでしょう。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行を教訓に、全ての介護施設・事業所で感染症発生時の業務継続計画(BCP)をつくることが義務づけられました6)7)。感染症の流行が起きても、重要な業務をできる限り中断させないように、職員の確保や応援体制、感染対策、業務の優先順位などをあらかじめ計画にまとめておくのです6)。
感染症発生時の現場対応手順がつまった「感染対策マニュアル」ももちろん重要ですが、業務継続計画はより平時からの体制整備を目的としています(表1)6)。
表1
業務継続計画と感染対策マニュアルに含まれる内容
| 区分 | 内容 | 業務継続計画 | 感染対策マニュアル |
|---|---|---|---|
| 平時の取組 | ウイルスの特徴 | △ | ◎ |
| 感染予防対策 (手指消毒の方法、ガウンテクニック等) |
△ | ◎ | |
| 健康管理の方法 | △ | ◎ | |
| 体制の整備・担当者の決定 | ◎ | △ | |
| 連絡先の整理 | ◎ | △ | |
| 研修・訓練 | ◎ | ○ | |
| 備蓄 | ◎ | ○ | |
| 感染(疑い)者発生時の対応 | 情報共有・情報発信 | ◎ | ○ |
| 感染拡大防止対策 (消毒、ゾーニング方法等) |
△ | ◎ | |
| ケアの方法 | △ | ◎ | |
| 職員の確保 | ◎ | ○ | |
| 業務の優先順位の整理 | ◎ | × | |
| 労務管理 | ◎ | × |
※◎、○、△、×は違いをわかりやすくするための便宜上のものであり、各項目を含めなくてよいことを意味するものではありません。
厚生労働省 介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン をもとに作成
このように、利用する方が介護サービスを安心して受け続けられるように、政策・制度の面からも体制づくりが続いています。
定期接種に新型コロナワクチンが追加
介護を必要としている高齢者にとって、ワクチンの定期接種は重要な備えの1つです。新型コロナワクチンも、2024年10月からインフルエンザと同じ「B類疾病」の定期接種になりました8)。B類疾病とは、予防接種法に基づく定期接種のうち、個人の発病や重症化の予防に重点を置いた疾病です。
新型コロナワクチン定期接種の対象者
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65歳以上の方
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60~64歳で対象となる方※
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※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)により免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方。
定期接種は毎年秋冬に1回行うことができます
また接種費用は自治体(市区町村)によって異なります
詳しくは住民票のある自治体にお問い合わせください
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A をもとに作成
新型コロナワクチンは、インフルエンザワクチンと同じように、毎年流行するウイルス株を予測して製造されています9)。
新型コロナワクチンの接種費用は、国からの助成が2024年に終了したものの、2025年以降は多くの市区町村で一部助成が続いています。新型コロナワクチンの定期接種を受けたい場合、日程や費用は自治体により異なるため、詳しくはお住まいの市区町村からの案内を確認しましょう。介護につながっている方は、介護施設の担当者やケアマネジャーに相談もできます。
健康寿命にも影響、
万一の感染時の備えを
「介護施設に入ると感染症にかかりやすくなるのでは?」と心配になる方もいるかもしれません。しかし、日本の介護施設に入居している高齢者が新型コロナウイルス感染症にかかる可能性は、地域で暮らす高齢者と大きく変わらないことが研究で報告されています10)。施設入居そのものを過度に不安視する必要はないでしょう。
ただし同研究では、介護施設の入居者が感染した場合、死亡する可能性は地域で暮らす方の約2倍になるという傾向も見られました10)。万一のときの備えがいっそう重要といえます。
また、医療・介護が必要な方が新型コロナウイルス感染症による肺炎になった場合、地域で暮らす健康な人よりも重症化や死亡のリスクが高くなります11)。オミクロン株流行期以降もこうしたリスクは依然として高く、医療・介護が必要な方は、重症化率が約2倍、死亡率が約4倍になることが報告されています11)。
さらに、高齢になるほど、感染後の身体機能の低下が大きくなります。新型コロナウイルス感染症で肺炎になった後、1年後に身体機能が低下している割合は、60歳代では0%ですが、70歳代では11.0%、80歳代になると42.5%に上ります11)。特に80歳代では寝たきりになる方も多いことが指摘されています11)。
健康寿命を維持するうえで、ワクチンは重要な選択肢です。2025年、60歳以上の日本人を対象とした研究では、新型コロナワクチンの入院予防効果は70%を超えていました12)。ただし、発症予防効果は半年経つと下がることも示されており12)、定期接種が大切であると言えるでしょう。
表2
高齢者におけるワクチン接種前後の致死率比較
| コロナ陽性 患者 |
未接種者 致死率 |
1回接種者 致死率 |
2回接種者 致死率 |
|---|---|---|---|
| 全年齢 | 0.55% | 2.15% | 0.43% |
| 263/48,131 | 26/1,207 | 1/233 | |
| 65歳以上 | 4.31% | 3.03% | 0.89% |
| 232/5,387 | 26/857 | 1/112 | |
| 65歳未満 | 0.07% | 0% | 0% |
| 31/42,744 | 0/350 | 0/121 |
厚生労働省 第47回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2021年8月11日)資料2-5 HER-SYSデータに基づく報告 をもとに作成
一方で、介護施設での新型コロナワクチン接種率は、インフルエンザワクチンよりも低くなっています。東京都内の老人保健施設を対象とした調査13)では、入居者への新型コロナワクチン接種を実施する施設は8割、職員への接種を実施する施設は4割にとどまりました。
介護につながる高齢者の暮らしを守るためにも
一人ひとりの対策を
介護現場ではコロナ禍の教訓をもとに、感染対策の徹底や医療との連携強化などが進められています。感染症による重症化や死亡のリスクから高齢者を守り、安心して暮らしを続けていくために、こうした支援の輪を今後も広げていくことが大切だといえるでしょう。
もちろん、一人ひとりの取り組みも欠かせません。手洗いやうがいなどの基本的な感染予防策に並び、重症化予防を目的とした新型コロナワクチンの定期接種もその1つです。ただし、ワクチン接種が可能かどうかは持病や体調などにもよるため8)、まずはかかりつけ医やケアマネジャーなどに相談してみましょう。
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1)
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2)
厚生労働省老健局 介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月)
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3)
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4)
厚生労働省 令和6年度介護報酬改定の主な事項について
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5)
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6)
厚生労働省 介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン
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7)
厚生労働省 令和3年度介護報酬改定における改定事項について 4P
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8)
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9)
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10)
Epidemiology of SARS-CoV-2 infection in nursing facilities and the impact of their clusters in a Japanese core city. J Infect Chemother. 2022 Jul;28(7):955-961
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11)
5学会による新型コロナウイルス感染症 診療の指針 2025
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12)
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13)
東京都医師会 定例記者会見資料2「令和6年秋冬の新型コロナワクチン定期接種の状況 ―東京都老人保健施設協会緊急調査結果から―」(2024年12月10日)
2026年7月31日閲覧
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