最近は、テレビのニュースや新聞を見ても、新型コロナウイルス感染症の報道は少なくなりました。「新型コロナウイルス感染症の心配はなくなった」、そう感じているかもしれませんね。
でも実は、2025年に入ってからも、中国や香港、シンガポールなどアジア各国で感染再拡大の波が起きています1)2)。日本でも5月下旬に神奈川県の中学校で学年閉鎖になった1)ほか、沖縄県では6月下旬に感染者急増に伴い「新型コロナ感染拡大準備情報」を発表しました3)。
むやみに恐れることはありませんが、感染対策は引き続き必要です。特に、重症化しやすい高齢者4)などは、ウイルスからしっかり身を守らなければいけません。その有効な手段の一つがワクチン接種です。新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが、インフルエンザなどと同じ「5類」となり、予防も治療も自己責任となった今だからこそ、改めてワクチンについて知っておきましょう。
2025年現在、新型コロナワクチンの種類は?
私たちのからだに備わっている「免疫の仕組み」を利用して感染症を予防してくれるワクチンには、ウイルスや細菌などの病原体そのもの、または病原体の一部などをもとに作られているものがあります(図1)5)。
現在のところ使用可能な新型コロナワクチンは、このうちmRNAワクチン、自己複製型mRNAワクチン(レプリコンワクチン)、組換えタンパクワクチンの3種類です。それぞれの仕組みを見てみましょう(表1)。
表1
新型コロナワクチンの主な種類
製法 | 働く仕組み |
---|---|
mRNAワクチン | ウイルスのタンパク質を作るもとになる遺伝情報の一部を注射することで、抗体が体内で作られる |
自己複製型 mRNAワクチン (レプリコン ワクチン) |
mRNAワクチンの一つで、接種されたmRNAが細胞内で一時的に複製されるように設計されている |
組換えタンパクワクチン | ウイルスのタンパク質を作るもとになるもので、免疫の活性化を促進するためのアジュバントという成分が添加されている |
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A をもとに作成
どれが自分に合ったワクチンなのか気になったら、まずはかかりつけ医などに相談しましょう。
65歳以上の方が新型コロナワクチンの接種について考えるとき、押さえたい9つのポイントについて、日本呼吸器学会などがまとめています6)。相談時の参考にしてください。
高齢者が考えたいワクチン接種のポイント
- 新型コロナウイルス感染症の流行はまだ終わっていません。
- 過去1年間の新型コロナによる死亡者はインフルエンザの10倍以上です。
- 昨年の接種から1年以上が経過し、ワクチン効果は低下しています。
- 新型コロナワクチンは重症化や死亡のリスクを減らします。
- ワクチンの安全性は確認されており、専門家によるモニタリングも実施されています。
- 高齢者ではワクチン接種後の副反応は軽度の発熱や注射部位の痛み等が大半です。
- 皆様の健康を守り、また他の人に感染を広げないために、ワクチン接種は大事です。
- 寒さが本格化する前のこの時期にワクチン接種を受けましょう。
- 新型コロナワクチンはインフルエンザワクチンと同時に受けることができます。
新型コロナワクチンは
2024年度から高齢者の
定期接種に
新型コロナワクチン接種は、全額公費による接種が2023年度で終了しています。2024年4月からは、インフルエンザと同じように定期接種になりました7)。定期接種の対象者は、65歳以上の方と60~64歳で対象となる方です7)。
新型コロナワクチン定期接種の対象者
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65歳以上の方
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60~64歳で対象となる方※
-
※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)により免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方。
定期接種は毎年秋冬に1回行うことができます
また接種費用は自治体(市区町村)によって異なります
詳しくは住民票のある自治体にお問い合わせください
厚生労働省 新型コロナワクチンについて をもとに作成
定期接種は年1回で、感染が広がりやすい秋から冬にかけての接種が推奨されています。1回接種すると、感染の予防効果は2~3カ月続くとされていますが、重症化の予防効果でいえば1年以上持続するといわれています8)。
費用は原則自己負担です。「お金がかかるなら…」と接種をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、高齢者世代は重症化しやすく、基礎疾患がある場合は、基礎疾患自体が悪化する可能性もあります9)。
ワクチン接種の費用は自治体ごとにその補助が異なります。実際の費用はお住まいの地域により異なりますので、自治体からのお知らせなどで確認しましょう。
自分や大切な人を守るためには
定期接種が有効です
繰り返しになりますが、ワクチン接種は、新型コロナウイルスの感染や重症化を予防する有効な手段の一つです。厚生労働省の調べでも、新型コロナワクチンを接種している高齢者は、接種していない高齢者と比べて死亡リスクが低下していることが分かっています9)(表2)。
表2
高齢者におけるワクチン接種前後の致死率比較
コロナ陽性 患者 |
未接種者 致死率 |
1回接種者 致死率 |
2回接種者 致死率 |
---|---|---|---|
全年齢 | 0.55% | 2.15% | 0.43% |
263/48,131 | 26/1,207 | 1/233 | |
65歳以上 | 4.31% | 3.03% | 0.89% |
232/5,387 | 26/857 | 1/112 | |
65歳未満 | 0.07% | 0% | 0% |
31/42,744 | 0/350 | 0/121 |
「まだまだ元気だし、まわりで新型コロナウイルス感染症に感染したという話も聞いていないから大丈夫」と思っていても、万が一のことがあれば、重症化・入院・医療費負担などに陥る可能性があるのです。そうなれば、生活に支障が出るだけでなく、家族にも介護や看病の負担をさせてしまうかもしれません。
自分らしく、家族に迷惑をかけることなくこれからも元気に過ごしていくために、ワクチンは心強い「お守り」になります。かかりつけ医とも相談しながら接種を判断することが、結果的にあなたやあなたの大切な家族を守ることにつながります。
ワクチン開発の歴史
私たちのいのちを守るワクチンは、1798年にイギリスの医師ジェンナーが、牛痘を用いた天然痘予防の方法を発表したのが始まりといわれ、19世紀にはフランスのパスツールやドイツのコッホが、弱い病原体を体に入れて免疫をつけるという「ワクチンの原理」を体系化しました。
この考え方が、今日のワクチンの基礎にもなっています11)。
20世紀には遺伝子組換えや細胞培養の技術が発展し、組換えタンパクワクチンが誕生。
B型肝炎ワクチンなどに広く使用されるようになりました5)。
21世紀に入るとさらに技術発展が進み、mRNAワクチンなども開発され、新型コロナウイルス感染症の流行により急速に普及しました12)。
このようにワクチンには200年の歴史が込められていて、今日も私たちの暮らしと健康を静かに支え続けているのです。
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1)
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6)
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9)
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10)
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11)
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12)
2025年7月14日閲覧
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