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鼻水、せき、発熱など、一般的な風邪と似た症状の多い新型コロナウイルス感染症。「ただの風邪かな?」と思って受診しないでいるうちに重症化してしまうことがあるので、気を付けなければいけません。
早めに気付いて適切に治療できるよう、新型コロナウイルス感染症の症状について、いま一度確認しておきましょう。
風邪との区別が難しい
初期症状
新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪とよく似ています。通常1~7日の潜伏期間の後、さまざまな症状がみられます1)(図1)。
嗅覚・味覚障害は、新型コロナウイルス感染症に特徴的な症状です。
これらの症状を調べた2021年の国内調査2)によると、入院・療養中の患者さんのうち、味覚障害だけの患者さんは全体の4%でした。また、嗅覚障害を感じている患者さんの多くが嗅覚検査でも異常がみられた一方、味覚障害を感じている患者さんの多くは味覚検査は正常でした。
つまり、新型コロナウイルス感染症の味覚障害とは、嗅覚障害に伴って風味が分からないために生じている可能性が高いようです。ちなみに、嗅覚・味覚障害の症状は、新型コロナウイルス感染症が治ればほとんどの人でなくなることも分かりました2)。
1週間以内に回復することが多いが、
後遺症が長期間続くことも
新型コロナウイルス感染症は、軽症の場合、多くは1週間以内に回復します1)。
ただし、治療を必要としなくなっても、さまざまな症状が残ることも少なくありません。新型コロナウイルス感染症にかかってから、感染力が消失しても、原因は不明ながら発症後から続いている症状、途中から新たに出た症状、または再び出て持続している症状のことを「罹患後症状」(いわゆる後遺症)といいます3)。
2020年の調査では、新型コロナウイルス感染症と診断されてから1年経っても、3割の人には疲労感や倦怠感、呼吸困難、筋力低下、睡眠障害、記憶障害、嗅覚障害、味覚障害といった症状がありました3)。
警戒したい重症化、
60歳代以上は30歳代の25倍!
一方、新型コロナウイルス感染症が重症化する場合、発症後5~7日程度で急速に症状が悪化します4)。
以下のような症状がみられたら、すみやかにかかりつけ医やお住まいの地域の連絡・相談窓口に連絡しましょう5)(表1)。
表1
緊急度が高い症状
※は家族等が以下の項目を確認した場合
表情・外見 |
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息苦しさ等 |
|
意識障害等 |
|
新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの一つに年齢があります。30歳代を基準に比べると、60歳代で25倍、70歳代で47倍、80歳代で71倍、90歳代で78倍となっており、70歳代~80歳代で重症化率が高くなっていることが分かります6)(図2)。
なぜ年齢とともに重症化しやすくなるのかについて、まだ詳細は分かっていませんが、新型コロナウイルスを体内から排除する特定の免疫細胞が、年齢とともに働きにくくなるからではないかと考えられています7)。ちなみに、男女別では、男性のほうが重症化しやすい1)ようです。

図2
年齢階層別にみた新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク
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※「重症化率」は、新型コロナウイルス感染症と診断された症例(無症状を含む)のうち、集中治療室での治療や人工呼吸器等による治療を行った症例または死亡した症例の割合。
生活習慣病も新型コロナ
ウイルス感染症の
重症化リスク因子
重症化の要因は、ほかにもあります。厚生労働省では、2023年4月に、重症化のリスク因子を以下のように定めています6)(図3)。
リスク因子には、生活習慣病(高血圧、糖尿病、心血管疾患)も多く含まれています。高齢で生活習慣病があると、重症化の危険がさらに高まってしまうということです。
さらに、このような基礎疾患や生活習慣に関わる重症化リスク因子を持っている方は、重症化だけでなく、いのちの危険にさらされる可能性も高まるため、注意が必要です。例えば、65歳以上で重症化リスク因子を持っている人は、そうでない人と比較して、感染した場合に亡くなるリスクが高いことが分かっています8)(表2)。
表2
高齢者(65歳以上)の各重症化リスク因子の有無による致死率
重症化 リスク因子 |
リスク因子のない 患者の致死率 |
リスク因子のある 患者の致死率 |
---|---|---|
慢性閉塞性 肺疾患 |
5.63% (14,328人中807人) |
13.4% (1,021人中137人) |
糖尿病 | 5.47% (12,785人中699人) |
8.15% (5,692人中464人) |
脂質異常症 | 5.78% (13,350人中772人) |
5.99% (3,408人中204人) |
高血圧症 | 5.42% (10,494人中569人) |
7.03% (11,728人中825人) |
慢性腎臓病 | 5.30% (14,168人中751人) |
18.0% (1,497人中269人) |
悪性腫瘍 | 5.40% (13,933人中753人) |
11.8% (2,048人中241人) |
肥満 | 5.69% (14,471人中823人) |
7.69% (481人中37人) |
喫煙 | 5.53% (13,530人中748人) |
6.93% (2,525人中175人) |
免疫抑制 | 6.64% (19,332人中1,284人) |
14.4% (987人中142人) |
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※高齢者の新型コロナウイルス感染患者51,755人のうち、各重症化リスクの有無の入力有りの者を解析対象
厚生労働省 第49回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月25日)資料4-3 新型コロナウイルス感染陽性者の重症化リスク因子への対応等 をもとに改変
むやみに恐れる必要はありませんが、いのちに関わる危険性があるということは忘れずに、しっかりと予防することが重要です。
世の中が「日常」に戻ったからこそ
ワクチン接種による感染予防が有効
新型コロナウイルス感染症は「5類感染症」へ移行されてから、インフルエンザなどと同じ扱いになりました9)。不要不急の外出自粛を求められたり、人と会うことを制限されたりすることはありません。しかしリスクはゼロになったわけではないのです。あらためて、ワクチン接種による予防を検討しませんか?
定期接種になった今、ワクチン接種は手洗いやうがいなどの基本的対策と並んで効果が期待できる感染予防策の一つです。
つい「自分だけは大丈夫」と思いがちですが、いつ、どこで感染してもおかしくないのが、新型コロナウイルス感染症の「今」です。重症化・入院・医療費負担などを避けるだけでなく、いのちを守ることに直結します。
重症化リスク因子となる慢性疾患のある方や、アレルギーのある方も、多くの場合は接種可能です10)。接種可能なワクチンは患者さんにより異なりますので、まずは、かかりつけ医に相談して、安心して毎日を過ごせるように対策を検討しましょう。
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8)
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9)
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10)
2025年7月14日閲覧
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