2023年5月、新型コロナウイルス感染症は「2類」から「5類」へと変更され、行動制限など多くの規制が解除されました。日常が戻ったように感じる一方で、いまも決して軽視できない感染症です。
ウイルスは変異を続けており、過去に感染した人やワクチン接種済みの人でも再感染のリスクがあります1)。また高齢になるほど重症化しやすいことが分かっており、罹患後症状(いわゆる後遺症)が長く残るおそれもある2)ため油断はできません。
今、重症化に陥らないためにはどうしたらいいのか、改めて確認しましょう。
年齢とともに高まる重症化リスク、
60歳代以降は十分な警戒を!
新型コロナウイルス感染症による重症化リスクは、加齢とともに急激に高まります。30歳代の重症化する可能性を「1」とすると、60歳代でその25倍、70歳代で47倍、80代では71倍と、重症化リスクが高くなることが分かっています3)(図1)。

図1
年齢階層別にみた新型コロナウイルス感染症重症化のリスク
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※「重症化率」は、新型コロナウイルス感染症と診断された症例(無症状を含む)のうち、集中治療室での治療や人工呼吸器等による治療を行った症例または死亡した症例の割合。
なぜ、年を重ねると重症化しやすくなるのでしょうか?はっきりとしたことはまだ不明ですが、新型コロナウイルスに反応する免疫細胞が、加齢とともに働きにくくなるからではないかと考えられています4)。
基礎疾患が
重症化の要因に。
喫煙者や肥満の方も要注意
重症化のリスクは年齢だけではありません。もう一つ重要なのが基礎疾患の有無です。持病をお持ちの方は、そうでない方に比べて新型コロナウイルス感染症による影響が大きくなる傾向があります3)。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腎臓病や心臓病、糖尿病などの基礎疾患のほか、肥満や喫煙など生活習慣の乱れも重症化リスクが高まる要因となっています3)(図2)。
さらに、これらの基礎疾患がある方は、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすくなるだけでなく、感染したことで基礎疾患自体が悪化してしまう恐れもあるので注意が必要です。特に2023年のオミクロン株の流行以降は、新型コロナウイルス感染症が直接の原因ではなく、感染をきっかけとする基礎疾患の悪化や合併症により、いのちに関わるケースが増えています5)。
持病が多いほど
高まるリスク
このように新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患や生活習慣に関わる重症化リスク因子を持っている方にとっては、やはり注意が必要な感染症です。例えば、65歳以上で重症化リスク因子を持っている人は、そうでない人と比較していのちの危険にさらされるリスクが高いことが分かっています6)(表1)。
表1
高齢者(65歳以上)の各重症化リスク因子の有無による致死率
重症化 リスク因子 |
リスク因子のない 患者の致死率 |
リスク因子のある 患者の致死率 |
---|---|---|
慢性閉塞性 肺疾患 |
5.63% (14,328人中807人) |
13.4% (1,021人中137人) |
糖尿病 | 5.47% (12,785人中699人) |
8.15% (5,692人中464人) |
脂質異常症 | 5.78% (13,350人中772人) |
5.99% (3,408人中204人) |
高血圧症 | 5.42% (10,494人中569人) |
7.03% (11,728人中825人) |
慢性腎臓病 | 5.30% (14,168人中751人) |
18.0% (1,497人中269人) |
悪性腫瘍 | 5.40% (13,933人中753人) |
11.8% (2,048人中241人) |
肥満 | 5.69% (14,471人中823人) |
7.69% (481人中37人) |
喫煙 | 5.53% (13,530人中748人) |
6.93% (2,525人中175人) |
免疫抑制 | 6.64% (19,332人中1,284人) |
14.4% (987人中142人) |
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※高齢者の新型コロナウイルス感染患者51,755人のうち、各重症化リスクの有無の入力有りの者を解析対象
厚生労働省 第49回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月25日)資料4-3 新型コロナウイルス感染陽性者の重症化リスク因子への対応等 をもとに改変
また、リスク因子の数が多いほど重症化や致死率が段階的に上がっており、年齢が上がるほどその傾向ははっきりしています6)(表2)。例えば、「65歳以上で喫煙習慣があり、糖尿病と診断されている」。このような方は意外と多いのではないでしょうか。
表2
重症化リスク因子の保有数と致死率
重症化 リスク |
致死率 | 65歳以上 致死率 |
---|---|---|
なし | 0.41% (85,092人中347人) |
4.62% (6,379人中295人) |
あり | 2.28% (18,334人中418人) |
6.89% (5,546人中382人) |
重症化因子 保有数 |
致死率 | 65歳以上 致死率 |
---|---|---|
0 | 0.41% (85,092人中347人) |
4.62% (6,379人中295人) |
1 | 1.38% (13,229人中184人) |
5.42% (3,120人中169人) |
2 | 3.80% (3,446人中131人) |
7.52% (1,608人中121人) |
3 | 5.20% (1,135人中59人) |
9.37% (587人中55人) |
4以上 | 9.69% (454人中44人) |
9.69% (231人中37人) |
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※新型コロナウイルス感染患者322,007人のうち、各重症化リスクの全項目に入力有りの103,426人を対象
厚生労働省 第49回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月25日)資料4-3 新型コロナウイルス感染陽性者の重症化リスク因子への対応等 をもとに作成
たとえいのちに関わらなくても、高齢者は入院すると、体力が低下したり認知機能が衰えたりして、退院後に元の生活に戻るのが難しくなることもあります。
高齢者の一人暮らしや夫婦2人世帯では、新型コロナウイルス感染症の重症化をきっかけに生活が一変する可能性は決して他人事ではありません。そのような事態を未然に防ぐために、感染・重症化防止対策が必要でしょう。
「自分と周りを守る」ために
定期的なワクチン接種を
2024年度から新型コロナワクチンは、主に65歳以上の方を対象に定期接種となりました。60歳以上の人が新型コロナウイルス感染症にかかった場合、オミクロン株対応のワクチンを接種していると、国内では44.7%、海外では70.7%の割合で入院への移行を予防できたことが報告されています7)。
また、ワクチンを接種している高齢者は、接種していない高齢者と比べて死亡リスクが低下することも分かっています8)(表3)。高齢者にとって、ワクチンは重症化を防ぐための有効な手段です。
表3
高齢者におけるワクチン接種前後の致死率比較
コロナ陽性 患者 |
未接種者 致死率 |
1回接種者 致死率 |
2回接種者 致死率 |
---|---|---|---|
全年齢 | 0.55% | 2.15% | 0.43% |
263/48,131 | 26/1,207 | 1/233 | |
65歳以上 | 4.31% | 3.03% | 0.89% |
232/5,387 | 26/857 | 1/112 | |
65歳未満 | 0.07% | 0% | 0% |
31/42,744 | 0/350 | 0/121 |
「副反応が心配」「もう何度も打ってきた」。ワクチンに対してさまざまな不安や疑問がある方も多いでしょう。そんな方こそ、まずはかかりつけ医に相談してみてください。現在の体調や服薬状況を踏まえて、あなたに合った方法を一緒に考えてくれるはずです。
「自分のために」「家族のために」、そして「日常を守るために」。定期的なワクチン接種を含め、できることからはじめていきましょう。
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5)
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6)
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7)
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8)
2025年7月14日閲覧
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