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新型コロナウイルス感染症は、多くの人にとって「ひと段落ついた話」と感じられているかもしれません。けれども実際には、いまも暮らしのすぐそばにある感染症です。特に体力や免疫力が落ちやすい高齢者にとっては、油断できない「身近なリスク」の一つになりました。
本記事では、新型コロナウイルス感染症のリスクについて、図やグラフを交えて分かりやすく解説します。
インフルエンザとは違う、
新型コロナウイルス感染症の特徴
現在、新型コロナウイルス感染症は感染症法上「5類感染症」に位置付けられ、インフルエンザと同じ扱いとなっています。しかし、同じ5類とはいえ、そのリスクには大きな違いがあります。
まず、死亡者数を比較してみましょう1)(図1)。2024年の1年間における新型コロナウイルス感染症による死亡者数は、インフルエンザによる死亡者数の10倍以上です。
また、感染後の重症化の可能性やいのちに関わる可能性も、新型コロナウイルス感染症のほうが高いことが分かっています2)(図2)。つまり、新型コロナウイルス感染症を「インフルエンザと同じようなもの」と軽く考えるのは危険です。
重症化率 (注1) |
(参考)致死率 (注1) |
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60歳 未満 |
60歳 以上 |
60歳 未満 |
60歳 以上 |
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新型コロナ オミクロン 株流行期 (2022年 1~2月に 診断注3、4) |
0.03% | 2.49% | 0.01% | 1.99% |
新型コロナ デルタ株 流行期 (2021年 7~10月 に 診断注3) |
0.56% | 5.00% | 0.08% (注2) |
2.50% (注2) |
インフル エンザ (2017年 9月~ 2020年 8月注3) |
0.03% | 0.79% | 0.01% | 0.55% |
図2
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの重症化率および致死率
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※季節性インフルエンザはNDBにおける2017年9月から2020年8月までに診断または抗インフル薬を処方された患者のうち、28日以内に死亡または重症化(死亡)した割合である。新型コロナは協力の得られた3自治体のデータを使用し、デルタ株流行期の場合は2021年7月から10月、オミクロン株流行期の場合は2022年1月から2月までに診断された陽性者のうち、死亡または重症化(死亡)した割合であり、感染者が療養解除した時点、入院期間が終了した時点、デルタ株流行期の場合は届出から2ヶ月以上経過した時点又はオミクロン株流行期の場合は令和4年3月31日時点でのステータスに基づき算出している。年齢階級別の重症化率においても概ね同様の傾向が見られるが、比較する際にはデータソースの違いや背景因子が調整されていない点等に留意が必要。
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注1)
重症者や死亡者の定義については以下を参照。新型コロナと季節性インフルエンザの重症化の定義は厳密には異なっている点に留意。
新型コロナ:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000929082.pdf
季節性インフルエンザ:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906106.pdf -
注2)オミクロン株流行期については3月31日時点の報告に基づき算出しており、特に致死率について過小である可能性がある。
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注3)季節性インフルエンザ・新型コロナともに分母に未受診者が含まれないため、重症化(致死)率が過大である可能性がある。
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注4)オミクロン株の亜系統であるBA.2やBA.5の流行期データではない点に留意が必要である。
入院者数を比較してもその差は明らかです。
インフルエンザでは、流行時期を含む2024年9月~2025年5月の集計で、入院者数は累計2万8644人3)、うち60歳以上の割合は約65%でした(月別の推移は図3)。一方、新型コロナウイルス感染症では同時期の入院者数は5万8311人4),5)、うち60歳以上は85%以上を占めました(月別の推移は図4)。新型コロナウイルス感染症では、高齢者の入院リスクがより高いことが分かります。

図3
インフルエンザによる入院者数の推移(2024年9月~2025年5月)
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※基幹定点医療機関(約500カ所)からの入院患者届出数
厚生労働省 令和7年5月16日Press Release, インフルエンザによる入院患者の概況(第19週) をもとに作成

図4
新型コロナウイルス感染症による入院者数の推移(2024年9月~2025年5月)
ところが、ワクチン接種状況となると、話が変わってきます。定期接種の状況を見ると、インフルエンザの方が高い「逆転現象」が起こっているのです。
東京都老人保健施設協会が調査したコロナワクチン及びインフルエンザワクチン予防接種実施状況6)によると、回答した91施設における入所者のワクチン接種割合は、インフルエンザが99%に対して、新型コロナウイルス感染症は81%。ワクチン接種のアンケート調査の結果、入所者の半数以上が接種を希望した施設の割合は、インフルエンザが78%に対し、新型コロナウイルス感染症は39%でした6)。

高齢になるほど
重症化しやすい新型コロナ
ウイルス感染症
重症化のリスクについてはどうでしょうか。新型コロナウイルス感染症にかかっても数日で回復する人もいれば、長く症状が続く人、重篤な状態に陥っていのちの危険にさらされる人など、その経過はさまざまです。では、重症化しやすい人の特徴は?その一つは年齢で、高齢になるほど重症化しやすくなります。30歳代の重症化する可能性を「1」とすると、60歳代はその25倍、70歳代は47倍、80歳代は71倍、90歳代は78倍と、リスクが跳ね上がります7)(図5)。

図5
年齢階層別にみた新型コロナウイルス感染症重症化のリスク
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※「重症化率」は、新型コロナウイルス感染症と診断された症例(無症状を含む)のうち、集中治療室での治療や人工呼吸器等による治療を行った症例または死亡した症例の割合。
なぜ、年を重ねると重症化しやすくなるのでしょうか。はっきりとしたことはまだ不明ですが、新型コロナウイルスに反応する免疫細胞が、加齢とともに働きにくくなるからではないかと考えられています8)。また、性別による差も見られ、男性は女性よりも重症化しやすいことが分かっています9)。
高齢であること以外にも、重症化しやすい人の特徴はあります。それは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、慢性腎臓病、悪性腫瘍といった持病(基礎疾患)や、免疫を抑制する薬の使用、または肥満、喫煙などの生活習慣などがある人です10)。
重症化すると危険!
退院後の生活に影響することも
リスク要因は重なれば重なるほど、重症化の危険性が高まります。では、実際に感染して重症化すると、どうなるのでしょうか?
まず、入院に至る可能性は高いです。重症度合いによっては、厳密な管理のもとで人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使っての集中治療が行われます11)。回復までに長期間を要したり、多額の医療費を必要とするばかりか、場合によっては命に関わる可能性もあります。
退院後も、罹患後症状(いわゆる後遺症)が残って退院後の生活に影響する可能性があります。
高齢者だからといって感染すれば必ず重症化するわけではありません。しかし、軽症であっても罹患後症状が出ることもあり、やはり注意が必要です(図6)。罹患後症状は長期にわたり症状が残ることが多いのも特徴で、新型コロナウイルス感染症と診断されてから12カ月経っても苦しんでいる方もいます12)。こうした罹患後症状が、日々の生活の質を低下させてしまうことも少なくありません。
後遺症の例
- 疲労感・倦怠感
- 関節痛
- 筋肉痛
- 咳
- 喀痰
- 息切れ
- 胸痛
- 脱毛
- 記憶障がい
- 集中力低下
- 頭痛
- 抑うつ
- 嗅覚障がい
- 味覚障がい
- 動悸
- 下痢
- 腹痛
- 睡眠障がい
- 筋力低下
図6
新型コロナウイルス感染症の後遺症
リスクが現実になる前に
「転ばぬ先の杖」を
新型コロナウイルス感染症のリスクがいかに大きいかということを、さまざまなデータをもとに見てきました。しかし、必要以上に心配することはありません。これらのリスクを下げるための現実的な対策をとりましょう。ワクチンの接種は有効な手段の一つです。
今が元気だと、つい「自分は大丈夫」と思いがちですが、過信は禁物。5類になり、法律に基づいた仕組みから自主的な取り組みに変わった今だからこそ、転ばぬ先の杖としてワクチン接種を活用することが大切です。重症化・入院・医療費負担などを経験することなく、生き生きとした毎日を過ごすためにも、新型コロナワクチンの定期接種を積極的に活用しましょう。
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1)
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3)
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4)
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5)
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7)
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8)
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9)
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10)
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11)
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12)
2025年7月14日閲覧
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