新型コロナウイルスに感染したとしても、しばらく安静にすれば治るのだから大丈夫――そう考えていませんか?
実際には回復した後にも症状が続くことがあり、「罹患後症状(Long COVID)」「後遺症」などと呼ばれ、その症状の深刻さが問題になっています。
そうした罹患後症状を「年齢のせい」と思い込んで見過ごしてしまったり、症状が長引いたりすれば、自立した生活を損なう可能性もあるかもしれません。罹患後症状について正しい知識を持っておくことが大切です。ここでは、罹患後症状のリスクや主な症状、その後の経過、治療について分かりやすく解説します。

新型コロナウイルス感染症の罹患後症状とは?
「罹患後症状(いわゆる後遺症)」とは、新型コロナウイルス感染症になってから3カ月を過ぎても、2カ月以上にわたって長引き、ほかの病気によるものだとは説明できない症状のことです。罹患後症状は、ずっと持続する人もいますが、症状が変動したり、いったん改善したのに再び現れたりする人もいます1)。
罹患後症状がみられる割合は、パンデミック初期(2020年)に入院した人の調査では46%にも達しました1)。一方、アルファ・デルタ流行期(2021年頃)に感染した人の調査では25~29%、オミクロン流行期(2022年頃)では12~17%へと下がっており、これにはウイルスの変異に加え、ワクチン接種者の増加などが関連している可能性があります1)。
なぜ罹患後症状が起こるのかはまだ分かっていませんが、新型コロナウイルスの感染初期に重症だった人の方が罹患後症状のリスクは高い2)と言われます。ただ実際には、感染初期には軽症だったのに後遺症が残ったというケースが、罹患後症状の患者さんの9割以上を占めます2)。軽症なら大丈夫というわけではありません。
罹患後症状の症状と
続く期間
新型コロナウイルス感染症の罹患後症状はさまざまです(図1)3)。
罹患後症状の例
- 疲労感・倦怠感
- 関節痛
- 筋肉痛
- 咳
- 喀痰
- 息切れ
- 胸痛
- 脱毛
- 記憶障害
- 集中力低下
- 頭痛
- 抑うつ
- 嗅覚障害
- 味覚障害
- 動悸
- 下痢
- 腹痛
- 睡眠障害
- 筋力低下
図1
新型コロナウイルス感染症の罹患後症状
よくみられるのは、長引く疲労感・倦怠感や睡眠障害、集中力の低下、呼吸困難、さらには頭がぼんやりして上手く考えられない「ブレインフォグ(脳の霧)」といった症状です1)。こうした症状が、数カ月から数年にわたり続きます。
症状が続く期間は、人によって大きく異なります。パンデミック初期に入院した患者さんの調査では、1年時点で33%、2年時点で26%の人に何らかの症状が残っていました1)。症状ごとに見ても、治っていく人も多い一方で、なかなか治らない人も一定数います(図2)。
中でも特に多くの患者さんを悩ませているのが、労作後倦怠感(PEM)と呼ばれる症状です。これは、家事や運動などをごく軽く行っただけで、数時間~数日以内に急激かつ強い倦怠感が起こるもので、日常生活に大きな支障を来します4)。
PEMが起こるメカニズムはまだ不明ですが、筋肉組織内で細胞のためのエネルギーをつくるミトコンドリアの機能が低下することが関連している可能性が指摘されています5)。
こうした症状が出ると、アクティブに過ごしたくても日常生活もままならない日々を過ごすことになりかねません。
罹患後症状はどう治療する?相談先は?
現在、罹患後症状の治療法については国内外で研究が進められています。
多くの罹患後症状は時間の経過とともに自然に軽快することが多く、それを待つ間、症状に合わせて苦痛を和らげる対症療法を行います6)。例えば、咳に対して咳止め薬を処方する6)、倦怠感に合わせて活動内容を調整する1)などです。
ただし、なかなか改善せず長引くこともあります。その場合は医師に相談し、他の病気が隠れていないかを確認するための追加の検査なども行っていくことになります6)。
罹患後症状を防ぐためにも
感染予防を
罹患後症状を防ぐためには、言うまでもなく新型コロナウイルスに感染しないことが一番です。現在、新型コロナウイルス感染症は「5類感染症」に位置付けられ、マスクの着用や人混みの回避などは個人の判断に委ねられていますが7)、重症化リスクの高い高齢者にとっては、感染予防は引き続き大切です8)。気を緩めず、日常生活の中で新型コロナウイルス感染症対策を習慣として定着させていきましょう。
新型コロナウイルス感染症対策の5つの基本
体調不安や発熱・下痢・嘔吐・発疹などの症状が出てきた場合は、自宅で療養あるいは医療機関を受診。

その場に応じたマスクの着用や咳エチケットを。
-
※普段使用するのは不織布マスクがおすすめ
-
※咳エチケット:咳・くしゃみが出るときはマスク、ティッシュ、ハンカチ、衣類の袖などで鼻や口を押える

換気、三密(密集・密接・密閉)を回避。

手洗いを日常の生活習慣に。
-
※帰宅時、食事前、トイレの後は、20~30秒かけて流水と石鹸でていねいに洗いましょう。アルコールなどの手指消毒液でもOK

良い生活習慣を実践し、健やかな暮らしを。
-
※適度な運動、栄養バランスの良い食事、十分な睡眠を心がけましょう
-
※アルコール、たばこは控えましょう

なお、新型コロナウイルスに感染する前にワクチンを接種していると、罹患後症状を起こしにくくなる可能性があるという研究結果も報告されています。世界各国の1000万人以上を対象とした分析で、ワクチンを接種した人は、全く接種していない人と比べて罹患後症状が30~50%少なかったそうです1)。
感染や重症化を防ぐだけでなく、罹患後症状のリスクを減らし、毎日を変わらず大切に過ごしていくためにも、定期的なワクチン接種を検討しましょう。
-
1)
-
2)
-
3)
-
4)
-
5)
-
6)
-
7)
-
8)
2025年8月18日閲覧
同じタグの記事