熱や喉の痛みがあっても、「ただの風邪?」と様子を見たり、市販薬でやりすごそうとしたりすることはありませんか?
けれど、その風邪は新型コロナウイルス感染症かもしれません。たとえ初期症状が軽くても、新型コロナウイルス感染症であれば、その自己判断が重症化や罹患後症状(後遺症)のリスクにつながることもあり得ます。
ここでは、風邪と新型コロナウイルス感染症の違いや、正しい判断と対処の方法についてお伝えします。
実は、そもそも「風邪」というのは一つの病気ではなく、鼻から喉にかけて急な炎症が起こる感染症の総称です1)。その原因の8~9割は、ライノウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどのウイルスだといわれています。
風邪の一般的な症状は、発熱、咳、鼻水や鼻づまり、喉の痛み、倦怠感、食欲不振などです。原因となるウイルスや細菌はさまざまであり、さらに体力や免疫力などにも左右されるため、症状の内容や重さには個人差がありますが、軽症であれば日常生活に大きな支障は出ない程度であることも多いです2)。

一方、新型コロナウイルス感染症の原因である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、風邪のコロナウイルスと同じグループに属してはいますが、新たに出現したウイルスで、従来のコロナウイルスとは大きく異なる特徴を有しています。例えば強い感染力を持ち、リスクが高い人では重症化することもあるため、注意が必要です3)。
風邪を起こすコロナウイルスは、ほとんどの人が幼児期から何度もかかるような「ただの風邪」のウイルスです。そして新型コロナウイルス感染症も、初期症状は「ただの風邪」とよく似ています(図1)2)。
ただし新型コロナウイルス感染症では、発熱や倦怠感、筋肉痛などの全身の症状が強く出やすいことが特徴です4)。また喉の痛みが出やすく、つばを飲み込めないような状態になることもあります4)。なお、パンデミック初期には嗅覚・味覚障害が取りざたされましたが、最近はウイルスの性質がまた変化したため、嗅覚・味覚障害が出ないケースも増えています4)。
一方、潜伏期間や経過はどうでしょうか。
風邪は、感染から発症までの潜伏期間が1~3日程度で、発症から3日目前後に症状のピークを迎え、7~10日ほどで回復するのが一般的です5)。
新型コロナウイルス感染症は、潜伏期間が1~7日(中央値2~3日)程度です。発症後は1週間ほどで回復してくることが多いですが、一部の感染者ではその後、状態が悪化することがあります。
つまり、風邪と新型コロナウイルス感染症の初期症状には似通った点が多く、どちらなのか判別するのは困難です。
しかし、初期症状は似ているものの、新型コロナウイルス感染症では、特に高齢者や基礎疾患のある人では重症化しやすく、入院や死亡に至るリスクがより高い4)ほか、回復後も症状が残ってしまう後遺症の懸念もあります8)。
なお、治療法にも違いがあります。風邪の場合、原因ウイルスを減らす薬はまだ存在しないため、症状に応じて解熱鎮痛薬や咳止めなどを用いて経過をみるのが一般的です。
一方、新型コロナウイルス感染症では、そのウイルスの増殖を抑える治療薬が承認されており、高齢や基礎疾患などのために重症化リスクの高い場合には使用するよう推奨されています4)。抗ウイルス薬は発症5日以内の方のみに使えることになっており、適切に使用すれば重症化予防につながることが分かっています4)。
そのため、「新型コロナウイルス感染症?それとも風邪?」と不安に思いながら何日も様子見するのは、適切な治療を受けられない可能性や重症化のリスクを考えると望ましくありません。迷った時点で新型コロナウイルス感染症かどうかの検査を行うほうが適切です。

「なんとなくだるい」「喉が痛い」「咳が出る」「熱がある」――そんな症状が出て「新型コロナウイルス感染症かも!?」と思ったとき、抗原検査キットを自宅に常備していればセルフチェックができます。検査キットは、薬剤師のいるドラッグストアや薬局、通販などで購入できます。ただし、選ぶ際は「研究用」ではなく「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」を選びましょう7)。
国が承認した医療用医薬品または一般用医薬品(OTC)の抗原定性検査キットは、
- 【体外診断用医薬品】または【第1類医薬品】と表示されています。
- 取扱い薬局・薬店(インターネット含む)で薬剤師に相談して購入してください。

購入時に薬剤師などから使い方などについて説明があります。

「医薬品」との表示はありません。
(注)○×は承認の有無を示します。
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※「研究用」は健康フォローアップセンターでの登録等には使えません。
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※体外診断用医薬品によるセルフチェックを行った場合であっても診断にはなりませんので、留意してください。
厚生労働省 消費者庁 新型コロナウイルスの抗原定性検査キットは国が ! 承認した「体外診断用医薬品」を選んでください!(小冊子) をもとに作成
検査キットで陽性になり診てもらいたい場合や、検査キットが手元にない場合は、かかりつけ医や最寄りの医療機関に電話で予約を入れてから受診しましょう。検査費用は、検査の種類や医療費の負担割合によって異なります。いざというとき慌てず受診できるよう、あらかじめ検査の流れについてかかりつけ医に確認しておくと安心です。
遠慮は禁物です。風邪のような症状が出て、新型コロナウイルス感染症かも……と迷ったら、早めに診てもらいましょう。
なお、新型コロナワクチンの接種は、感染の予防はもちろん、重症化や後遺症の予防にも有効とされています6)。後悔先に立たず。体調の良いときに、自分とまわりの人を守るための新型コロナワクチンを受けておくことがおすすめです。
国際医療福祉大学医学部感染症学講座 代表教授
国際医療福祉大学成田病院感染制御部 部長
松本 哲哉 先生

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2025年8月20日閲覧
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